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2018.12.17

Type& 2018 レポート

 

 

2018年11月2日(金)、3日(土祝)、タイポグラフィイベント「Type& 2018」が開催されました。Type&は、Monotypeが日本で主催するイベントとして2014年より毎年開催されており、5回目となる今回は恵比寿ガーデンプレイス内 ガーデンルームで4つのプレゼンテーションが行われました。

Type&
http://www.typeand.net/

初日最初のプレゼンテーションは、Ann Bessemans(アン・ベセマン)さんと高橋 貴子さんによるセッション「文字を中心にユニバーサルデザインを考える」。ロービジョン(低視力)の人が読みやすい文字について、それぞれの研究や調査をもとに発表されていました。角ゴシック体の日本語フォント3種類をロービジョンの方に読んでもらったところ、UDフォントよりも漢字と仮名のメリハリがついているフォントの方が読みやすいという調査結果は意外でした。また、弱視の方に文字がどのように見えているのか、サンセリフの欧文フォントをぼかして表示した例も紹介されました。数字の3の巻き込み部分が大きいフォントでは、3と8との区別がつきづらいなど、読みづらさにつながることがわかりました。

初日2つ目のプレゼンテーションは、マツダ株式会社デザイン本部ブランドスタイル統括部の方々とモノタイプのタイプディレクター、小林章さんによるトークセッション「ブランドの声をカタチにあらわすマツダのFONT開発」。マツダらしさを表す書体はどのようなものなのか、アイデンティティを表現する専用書体ができるまでのプロセスが紹介されました。マツダらしさを表す書体として候補に挙がったOptimaをベースにどのように調整を加えていったのか、具体的な解説をうかがいました。

実際のデザインプロセスでは、自動車のデザインに求められる3つの要素、プロポーション、フォルム、エレメントをそれぞれ検討。前に動き出しそうな躍動感とどっしりした安定感、温かみと緊張感など、相反する感覚を満たす書体を探って行きました。文字のエレメントや曲線を細かく調整することにより、求められていた安定感や張りのあるテンション、そして温かみを感じる専用書体が完成。現在では、自動車はもちろん、広告や印刷物などでもこの専用書体が使用されているそうです。

専用書体が使われているIRのウェブサイト
http://www2.mazda.com/ja/next-generation/?_ga=2.119785800.1545788136.1545039810-725051774.1545039810

 

   

 

そして日付が変わり、2日目最初のセッションは、米国Monotypeのタイプデザイナー、Juan Villanueva(フアン・ヴィラヌエヴァ)さんによるプレゼンテーション「カスタムフォント海外事例」。Domino’s Pizza(ドミノ・ピザ)のために開発された組み合わせ自由自在なモジュール式マルチレイヤーフォントの制作プロセスが紹介されました。手づくりのおいしさを感じさせる専用書体をどのようにデザインしたのか、具体的に説明していただきました。また、ピザのパッケージや広告をデザインする際、従来はグラフィックデザイナーが手作業で文字を重ねてしていたのに対し、レイヤーフォントの開発により、フォントを打つだけで簡単にデザインできるようになったり、ウェブサイトでも使えるようになったりなど、作業面でのメリットもうかがえました。

Domino’s Pizzaの専用書体について

そして2日目2つ目、最後のセッションは「欧文書体のセオリー・最新トレンドについて」。MyFontsにある2,500以上のファウンダリーを管理するMary Catherine Pflug(マリーキャサリーン・フルーグ)さんと、MyFontsほか海外サイトのフォントID(広告やロゴなどで使われているフォント名をたずねる質問に答えること)をしているAkira Yoshinoさんによるトークセッション。MyFontsの調査結果を元に、フォント購入の傾向や、よく使われているフォントの情報などの最新情報をうかがいました。

MyFontsによる2018年度の調査結果は下記ウェブサイトから見ることができます。

Our official Font Purchasing Habits Survey
http://fontpurchasinghabits.com/

また、セッションでは「The Typographic Ticket Book」(交通違反をすると切られる罰金チケットを真似てつくられたタイポグラフィ違反の罰金チケット)を話題に取り上げながら、欧文組版のルール、改善した方が良い点、書体の良し悪しの見分け方、タイポグラフィの学び方など、役立つ情報が紹介されていました。

The Typographic Ticket Book
https://designshop.typography.com/products/ticket-book

 

また、トークイベントの他、会場では2018年に100歳を迎えたグドルン・ツァップさん(故ヘルマン・ツァップさんの奥様)の展示スペースがありました。グドルンさんのカリグラフィ作品やデザインした書体Diotimaの金属活字とその印刷物、Diotimaにインスピレーションを得て日本のカリグラファーが描いた作品などが展示されていました。グドルンさんの作品と金属活字はこの展示のためにドイツから運んできたそうです。なかなか見ることができない貴重な作品でした。

 

手前は、グドルンさんが1948年に描いたスケッチ。

 

Diotimaの金属活字の組版とその印刷物(制作:嘉瑞工房)

 

Diotimaと日本のカリグラファーによるコラボレーション作品。
黒い文字の部分は、上写真の金属活字を活版印刷したもので、
その印刷物の上にカリグラファーが文字を描いている。

 

両日ともイベント終了後には、登壇者と参加者が気軽に交流できるパーティーを開催。カジュアルな雰囲気で文字の話ができる素敵な場でした。また、参加者へのノベルティとしてType&のマスキングテープが配布されたり、文字関連のグッズや書籍を販売するブースがあったり、気軽に楽しめる工夫が随所にありました。

文字に関する知識や情報を知るだけでなく、関係者と交流し、親交を深めることができた2日間でした。海外の書体カンファレンスのような楽しくてためになるイベントとして、今後もぜひ継続していただきたいと思います。